さくほで学び・育ち、さくほを出て、再びさくほに戻ってきた。

教育の現場で、それぞれに学んだことを生かしている。

第6号(2019年12月発行)

子ども達のお手本であり安心できる存在でありたい

佐久穂小・中学校 特別支援学級担任

井出 真綾さん [佐久中央小・佐久中卒 26歳]

井出真綾先生
井出真綾先生

勉強好きではなかった自分だからこそ

 佐久穂小・中学校内に併設する小諸養護学校「ゆめゆりの丘分教室」に勤務した後、「からまつ学級」の担任になって1年目。自閉症などを抱えた小学生6人を担当している。大学時代、教育学部で社会科を専攻し日本史の研究に勤しむ傍らで教員免許を取得。特別支援教育にも興味があったので特別支援学校の教員になるための勉強もしていた。子どもの頃は絵や読書が好きだった。図書館の読書カードがみんなより早く終わるように読みふけった。柔道や大正琴など町主催の習い事にも積極的に通ったが、勉強が面白いと思えたのは高校に入ってから。だからこそ、できない・やりたくない・やり方がわからない子の気持ちもわかる。「『完璧にできなくたっていいじゃん』と思える自分だから伝えられることがあると思います」。

 

生徒ひとりひとりに向けた授業

 子ども達は普段は通常学級のクラス(原級)で過ごし、国語と算数だけこのクラスで学ぶのが基本。学年も子どもの状態も違うので、教材はひとりひとりハンドメイドだ。 

 「集団の中だと生きづらそうな子たちが、ここに来るのをきっかけに世界を広げてくれたり、良いところがさらに伸びたりすると、楽しいしやりがいがあります。『こういう教材だと取り組みやすいみたいです』と、原級の先生と情報共有もします。そうやって教材もユニバーサルデザインになるといいですね。教員は子どもたちにとって最も身近な大人なので、お手本であり安心できる存在でありたいと思っています」。

 

「学年が違っても一緒にできるように工夫。漢字の授業もゲーム性を持たせて楽しく。」
「学年が違っても一緒にできるように工夫。漢字の授業もゲーム性を持たせて楽しく。」

小中一貫校ならではの雰囲気

 小中が一つの職員室を使い、中学校の先生が小学生を教えることもあり、児童・生徒の情報を共有しやすい。小学生が中学の文化祭を見学に行ったり、小学校の音楽会に中学生が参加したりと、生徒同士の交流も盛んだ。町内の公立校はここだけなので、遠くから通わなければならない子もいるが、町がスクールバスを出して教育の場を支えている。

 「自分が子どもの頃よりも無邪気な気がする。統合で規模が大きくなっているのに、みんな仲がいいですよ。校外学習や遠足などで引率すると、『自分も子ども時代に行ったなぁ』と思い出します。同じ思いを共有すると、自分と子どもたちがつながっている気がして嬉しくなります。また、町の人たちも温かく教育の現場を見守ってくださっているのが伝わってきます」と楽しそうに井出さんは話す。その笑顔から子供たちへの愛と仕事への情熱が伝わってきた。

佐久穂の山里で自然から学んだことを継ぐ

大日向小学校 環境教育ファシリテーター

山口  都さん [佐久東小・佐久中卒 26歳]

山口 都先生
山口 都先生

故郷の人たちとつながる喜びを伝えていく

 子ども時代の温かい思い出を胸に、今春帰郷した山口都さん。現在は、母校である旧佐久東小の校舎を引き継いで新しく開校した「しなのイエナプランスクール大日向小学校」で環境教育ファシリテーターとして、子ども達の傍で働く。

 静かだった校舎に子ども達の笑顔や賑やかな声が戻り、佐久穂に新たな風が吹いた。

 エネルギッシュな子ども達に負けない笑顔で微笑む山口さんの表情には、日々の充実ぶりがうかがえる。

 「村が全部遊び場で、自然と近所のおじいちゃんやおばあちゃんも友達だった」そういった自分が受け入れられる自由な時間を高校卒業まで充分に過ごした山口さんには、自然と引き継がれてきた風習や慣習が世代を越えて体に浸透している。

 

「自分にできることがあるんじゃないか」という問い

 山口さんは東京農大出身。農大を志すきっかけが、子ども時代に当たり前のように見てきた自然とそこで暮らす人々の人生の循環にあった。「引き継ぎ手がおらず、空いていく田畑をまた蘇らせることは出来ないだろうか」「土地の耕し手がいなくなった大切な田畑をどうやってまた人の手につないでいけるか」子どもの頃から持っていた素朴な疑問と「自分にできることがあるんじゃないか」という強い思いが結びついて、農大卒業後、東京で休耕田を畑として再生させ、貸し農園や体験農園を運営する企業に勤めた。

 その経験は、本当に佐久穂で活きることとなる。まだ雪の気配の残る三月下旬に故郷に帰り、子ども達との忙しい学校生活が始まった山口さんの元にプルーン畑の継ぎ手の話が来た。大切に育てられてきたプルーンの樹を守る。そこに大日向小学校に入学した子ども達の親と地域の人たちが集い、一緒に汗を流した。力を尽くした甲斐あって、大収穫に恵まれたこの夏、子ども達は、木から捥(も)いですぐに食べるプルーンの味を分かち合い、自分達で実際に作る新メニュー、「プルーンカレー」など知恵を絞った。手塩にかけた樹から実を結んだプルーンを収穫し、出荷する。地に足ついた佐久穂ならではの本物の学びである。

 

6月1日に行われた大日向運動会。地域住民と大日向小学校の児童・保護者・教職員で共につくりあげた。
6月1日に行われた大日向運動会。地域住民と大日向小学校の児童・保護者・教職員で共につくりあげた。

ほっとする人とのつながりや絆

 帰ってきて感じた「離れていた時間があっても、また繋がっているという安心感」、「そこから生まれる思いやりや助け合い」、「共に生きる」が佐久穂では当たり前のように根付いている。子どもの頃の思い出の一つ、お正月二日に子ども達が獅子舞を各家で舞う「御獅子の御年始」の記憶を辿りながら、「またいつか復活させたい」という。

 人との出会いと巡った機会や時間があって、今がある。「地域の繰り出す学校でありたい」、環境教育ファシリテーターとしての仕事は始まったばかりだ。

※年齢、勤務等は発行時のものです。