「タミーベーカリー」 木田 拓也さん

第9号(2021年12月発行)

ー開店経緯を教えてください

 

(木田拓也さん、以下、木田さん)大日向小学校に子どもを通わせるご縁で令和2年4月に家族5人で佐久市に移住(令和3年の春に佐久穂町に移りました)。直後にコロナが直撃し、生活が一変したこともあり、「自分たちはどうありたいのか」生き方を根本から見つめなおすようになりました。

 そんな時に浮かんできたのが美容室を営んでいた母親の姿でした。残念ながら2年前に亡くなってしまったのですが、葬儀の時に多くの方から声をかけていただいて。「あぁ、本当に地元の皆様に愛されていた店だったんだな」と胸が熱くなるものがありました。同時に、自分も母のように、身近で顔が見える方々に何かしらの貢献ができるような手触り感のある仕事がしたいと思うように。

 では自分は何がしたいのか。我が家は、三度の飯がパンでも大丈夫なぐらい、みんなパンが大好き。当時は佐久穂町にパンのお店が無かったこともあり、大好きなパンを通じて町の皆さまのお役にたてたら最高だな、と。そんな自分の気持ちに気付いたら、もう居ても立っても居られず、通信教育でパン作りの基礎を学び、開業支援もしてくれるパン屋さんでの修行を経て、令和3年9月、ご縁をいただいた八千穂駅前の素敵な物件で「タミーベーカリー」をオープンするに至りました。

 「タミーベーカリー」という名前は、私の母も妻の母も、偶然にも「タミコ」という名前で、その名前にあやかりました。また、英語の「tummy」は、日本語で子どもが言う「ぽんぽん」に当たり、「お腹」という意味があります。「パンでお腹が満たされて、自然と笑顔があふれでる」、そんな柔らかく暖かい情景が浮かぶようなパン屋にしたいと思い、この名前に決めました。ちなみに、八千穂駅の前ではじめるベーカリーなので「八兵衛」という店名候補もあったのは、ここだけの秘密です()

 

ー開店して2か月が経ちますがやってみていかがですか

 

(木田さん)とにかくアッという前に1か月が経ちました。慣れない立ち仕事が続くのもあって、開店直後は、夜寝ている時に両足のふくらはぎ・もも・すねの6か所が同時にツルという恐ろしい体験もしましたが、これもなかなか得難い良い思い出です()。と、大変なことは、もちろんありますが、開店して本当にありがたいなと思うのは、地元の方が想像していたよりも遥かに多くお店に来てくれていること。ご縁をいただいた佐久穂町の一員として、皆さまにパンを通じて笑顔をお届けしたいと思って始めたこともあり、地元の方が喜んでくれる姿を見られるのが、何よりも嬉しいですね。

 また接客していて心温まることの1 つに「ご近所さんにおすそ分けしたいから別で包んでくれるかい?」という方が、本当に多くいらっしゃること。ご近所の方々を気にかけ合う関係性がある町ってとても素敵だなと思いますし、そのようなやり取りに「タミーベーカリー」が一役買えていると思うと、お店を開いて本当に良かったなとつくづく思います。

 

―お店で大事にしていることを教えてください

 

(木田さん)アメリカで仕事をしていたときに同僚がよく言っていた「ファミリー イズ ファースト」という考え方が好きで、大事にしています。これには2つの意味があります。

 1 つは「自分の家族」をまずもって大事にするということ。家族が元気で笑顔でいてくれるからこそ、自分は安心して美味しいパン作りに専念ができる。そういった気持ちの安定が、パンの質やお店の雰囲気にも出ると思っています。お客様に笑顔をお届けするお店

であるためにも、まずは自分も含め、家族が健やかでいられることを大事にしていきたいと思っています。

 もう1 つは、この地域の皆さまを、広い意味での「ファミリー」として大事にしていきたい。北海道産100%の小麦や無添加生地など、安全安心な原料を使った美味しいパンをお届けするのは大前提に、皆さまにどうしたら喜んでもらえるかを常に考えています。例えば、20種類程度のパンを常時品揃えるすることで、選ぶ楽しさをお届けしたり。例えば、八千穂漁業さんの信州サーモンや、山本屋糀店さんのお味噌、レティーファームさんのミント等々、なるべく地元の食材を使うことで、少しでも地域資源の循環に一役買えたらと思っていたり。例えば、お店を借り受けて改装をする際に、皆さんにとって馴染み深い八千穂駅前の素晴らしい景観を損なうことのないような意匠を心がけてみたり。

 まだまだ駆け出しのパン屋ではありますが、地域の一員として、皆さまと長いお付き合いができるお店になれるよう、これからも試行錯誤を繰り返しなら、頑張っていきたいと思います。

 

18歳の皆さまに一言メッセージをお願いします

 

(木田さん)20年の飲食店での経験はありましたが、パン屋さんは全くの未経験でした。それでもやろうと思えたのは、「自分の能力は未来進行形で考える」という稲盛和夫さんの言葉と出会えたから。「『今、できるかどうか』で考えるな。例え今できなくとも、未来でできるようになっていれば良いだけ」という考え方。この考え方があったからこそ、パン屋がやりたいという信念だけで、ここまで突っ走れたんだと思います。

 「何ができるか?」という問いかけは、どうしても「過去」に経験した枠の中でしか思考が働きません。でも「何をやってみたいか?」という問いかけは、思考が「未来」に向く。未来に向いて思考するからこそ、道が開けるということが多々あります。

 18歳と言えば人生の1 つの岐路に立つタイミング、色々と思い悩む時かもしれません。そんな時こそ、ぜひ「何ができるか」から考えるのではなく「何をやってみたいか」という未来思考で、考えてみてもらえたらと思います。

とは言え「やりたいことが思い浮かばない」という方もいらっしゃると思います。そんな時は、「人生の目標」のような「大きな答え」をいきなり見つけようとせず、「ふと頭に浮かぶ、小さな『やってみたいこと』」を大事に、まずは経験してみましょう。その小さな一歩を繰り返していくうちに、皆さんならではの「やりたいこと」が、いつか見えてくるようになると思います。

タミーベーカリー

【住所】佐久穂町穂積1431-1【電話】0267-78-3279

【営業】午前11 時~午後5時(なくなりしだい閉店)

【定休】日・木・祝日 【駐車場】2

instagramhttps://www.instagram.com/tummy_bakery/

取材・テキスト

豊田陽介(東町)

カレー屋ヒゲめがね

 

 @higemeganecurry