山を次世代に繋げるのが使命

第8号(2020年12月発行)

有限会社 カネホ木材

星野 大揮さん [佐久中央小・佐久中卒 34歳]

カラマツの苗木を植え終えた星野大揮さん。(奥の立木は約60年前に植えられたもの)
カラマツの苗木を植え終えた星野大揮さん。(奥の立木は約60年前に植えられたもの)

佐久穂の山の恵み

山が人々の暮らしに与える恩恵は計り知れない。その山や自然を守るためには、人が正しく手入れする必要がある。カラマツの産地である南佐久の中でも、佐久穂町は他町村をしのぐ約4500haの町有林を保有している。戦後に拡大造林されたカラマツは、今、一斉に伐採期を迎えている。その中から木材の生産に適した約1000haを選び、年間約20haずつ伐採、植林し、町の財産である山と森を未来に残していくための整備計画が進行中だ。

 「約6〜7haの区画ごとに伐採し、そこに約15000本の苗木を植えるという作業を、毎年受託しています」と、カネホ木材3代目の星野大揮さん。以前はあまり需要がなかったカラマツだが、ここ数年は針葉樹合板・集成材としての需要が増えた。製材・土木用材としても東信地域のカラマツは強度があって質がいいと評判だ。

 

地場産業の後継ぎとして

 林業は危険な面もある仕事。後を継いでほしいと言われたことはないという大揮さんだが、11年前、父で社長の勝好さんが60歳を迎えたのを機に佐久穂町にUターンした。それまでは大学も就職も水産関係に進んでいた。水産とは真逆とも思える林業への転職に抵抗はなかったのだろうか。「兄弟は姉と自分だけなのでゆくゆくは継ぐつもりでいましたし、山も川も海も繋がっているからいいんです()。地元の自然を守る産業に使命感もありました。一度外に出たからこそ佐久穂町の良さがわかります。山々に囲まれた景色を眺めながらの作業も好きです」。

林業の現場は、地形も木の伸び方も毎回異なる。基本はあるがマニュアルはない世界なので、技術を教えてもらうことは難しかった。先輩の職人さんや父の姿を見て自ら学び、必要な資格も取得。重機が通るための道をどこにどう引くか、どこから木を切り出していくかといった、〝山の勘〞がつくまで5年以上かかった。そんな大揮さんの仕事ぶりを見て、「町にとって大切な仕事を丁寧にきれいにやってくれて信頼できる」と佐久穂町役場林務係の担当者も太鼓判を押す。

 

林業の未来のために

祖父の世代が植え、親世代が育てたものを子が使うというのがカラマツのサイクル。「自分は今、先人が植えてくれた木を受け継いで使わせてもらっています。だからこそ自分も次の世代に繋いでいかねばなりません」。担い手の育成は重要だ。そこで町内の林業者と協力して、佐久穂小・中学校の4〜8年生に林業の魅力を伝えるため「さくほ森の子育成クラブ」を立ち上げた。

「自分も幼い頃に山に連れて行ってもらい、機械に触れてあこがれたものです。機械化が進んだことで危険な作業も減り、女性オペレーターや若い職人も増えていますが、山奥の作業なので目に触れる機会が少なく、まだまだ一般に身近とは言い難い職種です。子どもたちにとって、格好いい憧れの仕事になれば嬉しいです」。3児の父の柔らかな笑顔には山の男というイメージはない。子どもたちだけでなく、皆が持つ林業のイメージまで変えてしまいそうな大揮さんだ。

 

「さくほ森の子育成クラブ」とは

さくほ森の子育成クラブのメンバー
さくほ森の子育成クラブのメンバー

森を知り、森を愛そう

 佐久穂町の誇れるものって何でしょう。佐久穂町にとってかけがえのないものって何でしょう。後世に残しておきたいものって何でしょう。そのどれにも当てはまるのが、佐久穂町の大きな財産、〝森林〞です。何といっても、佐久穂町の8割を占めているのが森林なのです。

 森林は、私たちに大きな恩恵をもたらせてくれます。この森林を守っていくことはとても大事なことなのですが、まず、私たちは森林のことを理解しなくてはなりません。そのために、子どもの時から森林に触れ、身近に感じる機会が必要です。そこで平成26年に設立したのが町内の林業事業体を中心に産・学・官で構成する「さくほ森の子育成クラブ」です。

 佐久穂小・中学校の4年生から8年生(中学2年)を対象に、森林林業に特化したキャリア教育事業を行っています。佐久穂町の森林林業について、各学年の発達段階に応じた学習や体験を提供し、将来一人でも多くの子どもたちに佐久穂町に残ってもらい、町の森林林業を担う後継者を育成することを目的としています。

 4年生はきのこの駒打ち体験と「森林の働きと水」の観点から学習、兜岩湧水の見学を行います。5年生では伐倒作業の見学、高性能林業機械試乗体験やチェーンソー、手のこぎり体験、6年生ではカラマツ、白樺の植栽体験、7年生では森が生まれるところから木が育ち伐採された木材が製品になって使われるところまで見学しながら学習、8年生では総まとめとして、さくほ森の子育成クラブの各事業体で就業体験(インターシップ)を行うなど幅広いカリキュラムでキャリア教育を行っています。

南佐久北部森林組合参事の島﨑和友さんより (八千穂北小・八千穂中卒 60歳)

 南佐久北部森林組合参事の島﨑和友さんは、「森の子育成クラブを立ち上げたのは小中一貫校が開校する前年の平成26年でした。教育委員会や先生方、佐久地域振興局林務課や佐久穂町の林務係と協議を重ね、提供できるプログラムを先生方に体験していただくなど試行錯誤を繰り返しながら具現化してきました。

 教材である森林について伝えたいことは教室では子どもたちに伝わりません。実際に森林に行って五感を使って感じ、興味を持ってもらい、自ら学習して欲しいと思っています。森林の中には教室では見つからない「なぞ」や「感動」がたくさん潜んでいます。私たちが生きていくために必要な空気や水、食料が森林と大きく関わっていることを理解してもらいたい。そして自分が育ったふるさとを誇れる人になってください」、と話してくれました。

チェーンソー体験(5年生)を指導する島﨑さん
チェーンソー体験(5年生)を指導する島﨑さん
きのこの駒打ち(4年生)を指導する星野さん
きのこの駒打ち(4年生)を指導する星野さん

※年齢、肩書等は発行時のものです。