佐久穂の新しい花卉文化をつくる

第3号(2018年7月発行)

花卉農家

中島和輝さん [佐久中央小・佐久中卒 32歳]

フラワーデザインを学び、栽培へ

 花の色や形が多彩なトルコギキョウは、佐久穂町を代表する特産品の一つ。この一つ一つの花に愛情を込めて育てている、花卉農家の中島和輝さん。生産者として自身に満ちた表情が印象的だ。仕事に誇りを持ち、取り組む姿は、実に格好いい。

 しかし、そんな中島さんも最初からこの道を志していたわけではない。雑貨などのデザインに興味を持ち、悩んだ末に、家業との中間をとって、フラワーデザインの道を目指した。

 「何よりいろんな業界を見てみたいと思ったんです」と中島さん。東京の専門学校でフラワーデザインを学んだが、入学当初は、クラスでも花のことを知らない方だったという。卒業後、実際に花屋で働く中で、生産物としての花にだんだんと興味は増していった。新宿や銀座などの花屋で働き、いろいろな情報があつまる場所、さまざまなニーズがある場所で、経験を積んだ。

 

花卉農家として自分のスタイルを

 23歳の時に、家庭の事情で実家に戻ることになった。それは生産者としてスタートすることを意味していた。当時、中島家では、生産だけでなく、小売りやブーケづくりなども手掛けるようになっていた。そこに自分としての“色”を出すために、自分自身の屋号(店舗のない花屋)も持つことに決めた。「NOCE(ノーチェ)」と名付けた。「NOCE」は、イタリア語で「木の実」を意味する。

 「成長する中で一つの成果が木の実として結実します。また、それは次に続く、種でもあります。マークは、シャムロックという洋菊を使っています。菊は一般的に縁起の悪いイメージですが、シャムロックは外国では祝い事に使われる花です。そういったとてもいい花にあやかって、既成概念をくつがえしていきたい、そんな思いを込めています」と中島さん。

 帰郷後、間もなく家業を継いだ。それから数年、自分なりのスタイルを身に付けつつあるが、まだまだ学ぶことは多い。

 「花は気が抜けない。自分の甘えがダイレクトに出てしまう。自分が集中できなかったときなど、モノが悪くなってしまいます。きちんと目をかけてやることが大事です。今は自分の生活の一部。ごはんを食べるのと一緒。休みでも畑に行かないと気が済まないです」と、花に愛情を注ぐ毎日が続いている。

 

現在は、フラワーアレンジメントも受注している。写真は「母の日」用のアレンジメント
現在は、フラワーアレンジメントも受注している。写真は「母の日」用のアレンジメント

キク・カーネーションからトルコギキョウへ

 一方で、“花業界”への危機感を持つ。昔は佐久町といえば、キクだった。中島家も祖父の代でキク、カーネーション、父の代でカーネーションとバラをメインに扱っていた。特にバラなどは外国産の輸入物に押され、トルコギキョウへと移ってきた。今はトルコギキョウがメインだが、中島さんは、露地の花木を始めたり、冬の品目も何かできないか模索している。

 花を実際に消費者に届ける場面や、フラワーデザインに携わってきたからこそ、もっと何かできるのでは、というもどかしさがある。

 「自分が花屋で学んだことを生産現場で活かしたい。いろんな場面を見て、知っているからこそできることもあるはず。生産においても、小売りにおいても、どうやって花を生活に組み込んでもらえるか、もっと身近な存在にしてもらうのが課題。花の魅力を発信していく場所をつくりたいですね」と意欲を見せる。

 個人としてはもちろんだが、佐久穂町の花卉栽培の発展にも展望を持ち、「花卉農家で自分は一番の若手。自分ががんばることで、花卉農家を魅力的に思ってくれる人が増えたら。今後、つないで守っていくためにも、新規就農者を増やしたいですね」と力を込める。

 

 新しい感性を持ち、新しい風を持ち込む中島さん。今後、新しい花卉栽培の文化をつくっていくかもしれない。